
Nick Mitsuya, Japan Country Manager at NAVEX
インシデントの報告およびケース管理に関する有効な仕組みを整備することは、あらゆるコンプライアンスプログラムにおいて重要な要素です。しかし、これはプロセスの一部にすぎません。自社のデータを実際に確認・分析し、同業他社とベンチマーク(比較)することで、リスクおよびコンプライアンスプログラムに関する重要な問いに答えることが可能になります。
本レポートは、日本の企業の皆様が、自社の状況を国内および地域の同業他社と容易に比較できるよう支援することを目的としています。
なお、ベンチマークデータに「正解」となる結果は存在しません。企業ごとに事業環境や組織文化は異なります。
通報件数は相対的に少ない
日本の通報件数はアジア太平洋地域 (APAC) と比 べても低く、世界比較では大幅に低くなっています。 従業員100人当たりの通報件数は、アジア太平洋地 域では 0.83 件、世界では 1.65 件であるのに対し、 日本では0.63件です。この結果は、本レポートの冒 頭で示した考察を強く裏付けるものです。すなわち、 日本における通報件数は、文化的および企業慣行上 の規範の影響を大きく受けているということです。 忠誠心や調和を重んじる価値観、ならびに対立を 避ける行動様式が、結果として通報件数の低さに つながっていると考えられます。
匿名通報が 主流
日本における匿名通報の割合は、APAC全体のベン チマークと同水準であり、いずれもグローバル平均 を9ポイント上回っています。この結果は、日本でも 不正行為に関する通報自体は行われている一方で、 前述した文化的要因の影響により、通報者が自身 の身元を明らかにすることに対して、なお慎重な姿 勢を保っている可能性を示唆しています。
不正行為の事実認定率は 地域間で大きな差はない
日本における調査後の不正行為の事実認定率は、 APACおよびグローバルのベンチマークと同水準に あります。これは、いずれの地域においても、調査の 結果として導かれる結論に大きな違いがないことを 示しています。通報件数や匿名通報に対する選好 には地域ごとの差異が見られるものの、世界各地の 組織は、報告された不正行為について、同様の割合 で事実認定に至っているという状況です。
調査は丁寧に実施されるが 是正対応に時間がかかる
日本の企業は、APACおよびグローバル平均と比べ て、ケースクローズまでに大幅に長い期間を要して います。日本におけるケースクローズまでの期間の 中央値は73日であり、グローバル中央値の28日と 比較すると、2.5倍以上の長さとなっています。この 結果は、日本の企業行動を規定する文化的規範 を踏まえると、寄せられた懸念に対して、より慎重 かつ丁寧な調査を行っている可能性を示唆してい ます。一方で、ケース対応に長い時間を要すること は、通報に対する組織の対応が遅いと受け取られ るリスクを伴う点にも留意が必要です。
最も多く報告されているリスク カテゴリーは「職場での行為
日本で最も報告されているリスクカテゴリーは職 場での行**為(Workplace Conduct)**であり、全通報の 50%を占めています。この傾向は、すべての地域で 共通しています。
次いで多いのが**企業倫理(Business Integrity)**で、日本およびAPACでは通報全体の24.5%を占めてい ます。この割合は、グローバル平均を4ポイント以上 上回っており、日本の企業環境において、期待され る行動規範や倫理観が重視されていることを改め て示しています。
リスクカテゴリー別のベンチマークの中で、もう一つ 注目すべき点として挙げられるのが、**会計、監査、財 務報告(Accounting, Auditing, Financial Reporting)**です。このカテゴリー全体の通報割合は相対的に低 いものの、APACでは日本の約2倍の水準となってい ます。日本はAPAC地域に含まれることから、同地域 内の他国において、この分野に関する通報がより活 発であることが示唆されます。
受付手段の主流は Webによる通報
日本では、Webを通じた通報が強く選好されており、 全通報の76%がオンラインで提出されています。この 割合は、APACの61%を大きく上回り、グローバル平 均の34%と比較しても顕著に高い水準です。この傾 向は、前述のとおり、日本の組織において匿名通報 が好まれる傾向と密接に関連していると考えられま す。デジタルによる通報チャネルは、通報者が身元を 明かすことなく懸念を提起しやすい手段であること から、その利用が進んでいるものと推察されます。
ンス責任者が検討す べき重要ポイント
レポートを読んでください。日本の傾向をまとめると、通報件数は少なく、 匿名通報は多く、ケースクローズまでに要す る期間は長く、正式なスピークアップの仕組み を設けていない組織が多い、ということが 言えます。
職場の調和や階層的な組織構造が、懸念の 提起を難しくする可能性がある日本において、 これらの傾向は単なる運用上の課題にとどま らず、声を上げることに対する根本的な障壁 の存在を示しています。
信頼を醸成し、匿名での通報が確実に行 える体制を整えるとともに、変化する規制 動向に整合したスピークアップの枠組みを 強化することは、懸念をより早期に把握し、 迅速かつ的確に対応することにつながりま す。さらに、それは、声を上げることが安全 であり、かつ組織として支持されていると実 感できる企業文化を育むうえでも重要な要 素となります。
著者紹介

Carrie Penman
最高リスク・コンプライアンス責任者
NAVEX

リンダ・ミークル
コンテンツマーケティング・アソシエイトディレクター
NAVEX

Eric Gneckow
シニアコンテンツマーケティング・マネージャー
NAVEX

イザベラ・オークス
データサイエンティスト・スペシャリスト
NAVEX

アンダース・オルソン
データサイエンス シニアマネージャー
NAVEX

三ツ谷直晃
Japan Country Manager
NAVEX