本レポートは、2026 年 1 月から 2 月にかけ、世界 各国の経営幹部約 1,200 名を対象に実施された グローバル調査 『State of R&C in Japan 2026』 の結果から、日本在住の回答者 102 名の 回答を抽出し、世界全体の結果と比較・分析し たものです。
調査 結果からは、日本企業のコンプライアンス プログラムは成熟度も含め、おおむねグローバル 水準と同等の位置にいることが判明しました。 また、経営幹部の倫理意識はグローバル平均と同等の水準にあり、コンプライアンス関連業務に おける AI 活用に対しても前向きな姿勢が見られることも明らかになりました。
その一方で、本調査からは日本特有の課題も浮かび上がっています。例えば諸外国と比較すると、日本ではサードパーティーに関連した倫理・ コンプライアンス問題の発生率が高い傾向にあります。また、スピークアップ文化(率直なコ ミュニケーションを促進する組織文化)の醸成や、コンプライアンス体制強化に向けた投資や取締役会からの関与には、他国と比較すると消極的な姿勢が浮き彫りとなっています。
日本企業のリスク管理&コンプライアンス プログラム成熟度は、おおむねグローバル平均と同水準
本調査によると、日本企業のリスク管理およびコンプライアンス(R&C)プログラム、ならびにその成熟度は、おおむね世界平均と同水準にあります。
プログラムの成熟度に関しては、NAVEX は 倫理・コンプライアンス・イニシアチブ(ECI)の「高品質プログラム(HQP)」に準拠しています。 日本企業のリスク管理およびコンプライアンス(R&C)プログラムは世界平均と同水準にあり、プログラムの成熟度もほぼ同水準にあります。
多くの日本の組織では、自社プログラムの成熟度が高いと報告していますが、これはグローバルなベンチマークと密接に一致しており、その大半が 「管理段階」 または 「最適化段階」 にあります。特に、自社のプログラムを 「未発達」 と評価する日本企業は、世界平均に比べて少なく、プログラムの強固な基盤が築かれていることが示唆されています。
日本企業リーダーのリスク & コンプライアンスに対する姿勢とは
日本の回答者の大半は、自社のリーダー層について肯定的な見方を示しました。回答者の 63%が、上級幹部が適切な行動の模範を示しているとしましたが、これは世界平均の 55% を上回っています。さらに 88% は、経営目標を達成するため、組織の上級リーダーが従業員に非倫理的な行動を促す場面を目撃したことは 「ない」 と回答しました。
しかし、コンプライアンスへの取り組みは、圧力がかかった状況でも維持されるのでしょうか?「利益相反に直面した際、経営幹部が倫理への取り組みを維持しているか」 という質問に対し、日本の回答者の 32% が 「はい」 と答えました。これは、世界全体の回答率である 50% を下回っています。
「スピークアップ」 文化と独特の圧力
「スピークアップ」(率直に意見を述べる)文化とは、従業員が利用可能な内部通報ルートを通じて懸念事項を提起することで、問題の特定や解決により積極的な役割を果たせるよう後押しする、より広範な組織的アプローチを指します。
このアプローチは、組織と従業員の双方に価値をもたらすと同時に、組織全体のレジリエンスを強化します。さらに、オープンなコミュニケーションを促進する環境を醸成することは、従業員の離職率の低減にも寄与します。これは、少子化や高齢化といった人口動態上の課題により、人手不足が深刻化している日本において、特に重要な意味を持ちます。
日本の企業では、従業員が声を上げるための仕組みの多くが、まだ発展の初期段階にあります。しかし裏を返せば、こうした課題への取り組みをさらに強化する余地があるということでもあります。
発効から約 20 年が経過した今でも影響を持つ J-SOX
J-SOX は、制定から 20 年が経過した今もなお、変革を推進し続けています。そのモデルとなった 2002 年の米国サーベンス・オクスリー法と同様に、企業のコンプライアンス問題の深刻度にかかわらず、企業の行動を広範かつ実質的に形作っているようです。
ただし、組織の状況は変化します。最初に法律が制定された際にコンプライアンスの遵守に苦労した企業も、現在では同法に完全に準拠するために必要な組織体制を確立している可能性があります。
日本企業のリスク管理・ コンプライアンスと AI:期待と不透明さ
今後 12 か月間の AI 導入見通しについて回答者に尋ねたところ、意欲的な姿勢が浮かび上がりました。日本企業は、AI の利用を大幅に拡大し、コンプライアンス業務における導入をさらに推進する計画を持っているようです。モニタリングや監視における AI の利用は、ほぼ 2 倍になると予想されています。同様に、証拠の精査、パターンの検出、レポート作成などの調査支援においても、大幅な伸びが見込まれています。
現状の水準は低いものの、サードパーティー リスクのスクリーニングやデューデリジェンスにおける AI の活用は、今後 12 ヶ月間でほぼ 2 倍になると予想されています。しかし、自社プログラムにおけるこの重大な課題に対処するために AI を活用すると見込んでいる日本企業は、12 ヶ月後であってもわずか 4 分の 1 にとどまっています。
総括
レポートをダウンロード調査結果からは、日本企業のコンプライアンス プログラムは成熟度を含め、おおむねグローバル水準にあることが確認されました。一方で、調査の解決までの時間やスピークアップ文化の醸成、サードパーティーのコンプライアンス対策など、日本企業が今後さらに強化すべき領域も明らかになりました。
これらの課題は、制度や仕組みの整備だけではなく、企業文化そのものに関わるテーマでもあります。コンプライアンス プログラムをさらに前進させるためには、経営層や取締役会等のハイレベルからのさらなる 働きかけとともに、従業員が疑問に対して声を上げることのできる環境の醸成が欠か せません。
調査でも明らかになった通り、プログラムの成熟度や経営層の倫理意識の高さなど、日本企業にはコンプライアンスが根づく土壌が備わっています。しかしそこで満足してしまうのではなく、刻一刻と変化する状況に対応するために世界の情勢を理解し、自社の強み・伸びしろに合わせた施策を打っていくことで、世界の舞台で活躍する企業体力の基盤となる、強靭なガバナンス体制を実現することが可能になります。