
「悪意ある」 ホットラインへの通報とは?
社内通報ホットラインは、一つのツールです。これには特定の、しかも極めて重要な目的があります。それは、コンプライアンスチームが企業の不正行為を明らかにし、会社がそれらの過ちを是正し、合法的かつ倫理的な方法で事業目標の達成を継続できるようにすることです。
では、コンプライアンス担当者は、従業員がホットラインを他の不適切な目的で利用しようとするリスクに、どのように対処すべきでしょうか?
この質問は、私が司会を務めた最近の NAVEXのウェビナー「スピークアップ・プログラムの推進方法」で提起されました。社内ホットラインがなぜそれほど有用なのかについて長い議論が行われた後、ある参加者が次のように尋ねました。「ホットラインは、従業員の不適切な業務遂行を正当化したり、虚偽の通報を通じて他者の評判を傷つけるためのツールとして利用されることを 意図していない ということを、どのように伝えればよいでしょうか?」
これは挑発的な質問ですが、同時に重要な問いでもあります。社内ホットラインの成功は、信頼にかかっています。例えば、同僚が自分を守るためや他者を傷つけるためにホットラインを悪用しているという印象を抱いた場合など、従業員がホットラインへの信頼を 失った 瞬間、倫理・コンプライアンス・プログラムへの信用は大きく揺らぐことになります。
問題の根本を理解する
まず、コンプライアンス担当者が最も遭遇しやすい2つの「悪用事例」を定義しましょう。
- ある従業員が、別の従業員について虚偽の通報を行うためにホットラインを利用するケースです。例えば、「山田さんが私の当然の昇進を横取りしたので、彼に利益相反の疑いをかけよう」 や、「木村さんとは誰も仲良くできない。彼女にセキュリティ違反の疑いをかけ、業績改善計画の対象にして解雇できるようにしよう」といったケースです。
- 解雇されることを恐れた従業員が、保護対象となることを期待して、根拠のないホットライン通報を行う ケースです。「不適切な業務慣行について告発した以上、もう解雇されることはないだろう」 といった考えです。
上記のような悪意のある通報が実際にどれほどの頻度で発生しているかは、正確には分かりません。コンプライアンス担当者の誰もがこうした事例について何かしらの話をしていることから、明らかに発生していることは確かですが、この件に関する具体的かつ定量的なデータを見つけるのは困難です。
例えば、NAVEX が毎年発行する 『内部通報およびインシデント管理ベンチマークレポート』 では、社内ホットラインへの通報の立証率を追跡しています。2025 年のホットライン通報全体における立証率は44% あり、これは立証されなかった通報が 56% を占めていることを示唆しています。
「根拠のない通報」とは、「調査の結果、報告された内容が不正確であることが判明した通報」 と定義されています。つまり、悪意のある通報は根拠のない通報の一部に過ぎませんが、ここで重要なのはその動機です。善意で誤った通報を行う従業員と、意図的に虚偽の通報を行う従業員との間には、天と地ほどの違いがあります。根拠のない通報のうち、どれほどが意図的な虚偽の通報なのでしょうか? 確かなことは誰にも分かりません。
とはいえ、コンプライアンス担当者は一歩引いて、悪意のあるホットラインへの通報が本質的に何を意味するのかを正しく認識すべきです。それは、不正行為を根絶するという コンプライアンス チーム の目的ではなく、自分自身 の目的 (極めて不適切なものである可能性もあります) を追求するためにホットラインを利用している人々による通報なのです。
これこそが、避けるべき認識のズレです。従業員には、ホットラインは本来の目的のためにのみ使用されるべきであることを理解し、その考えを受け入れてもらう必要があります。
適切なメッセージを伝える
従業員に、悪意のある通報のためにホットラインを利用しないよう説得することが目的であるならば、コンプライアンス担当者はいくつかの措置を講じる必要があります。
まず第一に、ホットラインは正当な懸念事項にのみ使用すべきであることを明示した方針を策定する ことです。ホットラインの悪用は厳重に受け止められ、違反者に対しては懲戒処分が科されることを強調してください。
しかし、悪意のある通報に対する方針は、あくまで第一歩に過ぎません。その後、ホットラインの目的や、社内通報全般に関する研修や周知徹底を行う必要があります。悪意のあるホットライン通報の具体例(前述の2つの事例など)を挙げ、そのような通報を行った場合の罰則について説明してください。「このような悪用が起こり得ることは承知しており、注意深く監視していきます」 というメッセージを伝えましょう。
また、こうした警告と併せて、適切な通報がもたらすメリットについて、より前向きなメッセージを伝えることも有効です。例えば、ホットラインは 「正しい行動をとろうとする従業員を保護し、会社が問題を解決するのを支援するために存在している」 と強調することができます。それならば、なぜ誰かが悪意のある通報でその会社のリソースを台無しにしようとするのでしょうか?
最も効果的なメッセージとは、否定的な説得と肯定的な説得の適切なバランスを取り、人々を望ましい結論へと導くものです。悪意のある通報自体が間違っていること、そして健全なホットライン制度が日々、従業員と会社の双方に役立っていることを強調してください。
メッセージを徹底する
あらゆるポリシー、研修、メッセージにもかかわらず、従業員が悪意のある通報でホットラインを悪用する可能性があります。では、コンプライアンス担当者はこの頭痛の種を鎮めるために、他に何ができるでしょうか?
まず、人事チームは貴重なリソースになり得ることを忘れないでください。人事チームは、従業員がどのように扱われているかに関する豊富なデータを持っているからです。そのデータを精査し、何か示唆が得られるか確認してみてください。
コンプライアンスチームは、正当な通報、誤解に基づく通報、あるいは明らかに悪意のある通報をより的確に見極めるために、人事チームとの強固な連携(および人事データへのアクセス権!)が必要です。
第二に、悪意のある通報は真剣に受け止めてください。意図的にホットラインを利用して害を及ぼそうとする従業員は、内部通報プログラムの本来の目的を歪め、あらゆる組織が成功するために不可欠な信頼の文化を損なうことになります。さらに、他者について通報を行う従業員は、会社に多額の訴訟リスクをもたらす可能性もあります。
ホットラインは、企業がコンプライアンス リスクを低減し、企業文化を向上させるためのツールとして存在しています。完全に悪意のある通報は稀かもしれませんが、コンプライアンス担当者は、ポリシー、研修、監視体制を通じて、そのリスクに対処する必要があります。そうすることで、正当な通報の調査に専念し、組織を前進させることができるのです。


